「20xx年までにカーボンニュートラル化」を目指すということが様々な業界で聞かれるようになりました。一般にはエネルギー分野では化石燃料から水素への転換や、蓄電池などを利用した完全電動化に切り換えていくことと認識されていることも多いかと思います。しかし、実際には旅客機のように化石燃料を止めて完全電動化をすることが難しい分野や、石油化学製品など原料として炭化水素を利用している分野などもあり、単純に炭素を含む物質の使用を完全に止めるというだけでは、カーボンニュートラル化の技術的な障壁がとてつもなく高くなります。このため現実的な解決策としては、地下の化石燃料を新たに掘り出して使うことは止めて、使用した炭素を回収して再利用するカーボンリサイクルを行う形でカーボンニュートラルを達成する方向に向かっています。(ただしこれも技術的には必ずしも簡単ではなく、工場等からの排気ガスに含まれる高濃度の二酸化炭素や、大気中に400ppm程度の低濃度でに含まれている二酸化炭素を低コストで回収して再利用するための技術開発が必要になります。)

 炭素を含まないエネルギー媒体として水素が注目されていますが、水素は大気中にはわずかにしか存在しないので、他の化合物等から取り出す形で生成されています。現在は最も経済的に水素を作る方法が天然ガスなどの炭化水素の水蒸気改質であり、この方式では水素を製造する際に二酸化炭素が出ることになり、クリーンな水素とは言えません(炭化水素由来で二酸化炭素回収なしのものはグレー水素、回収ありのものはブルー水素と呼ばれています)。そこで再生可能エネルギーの余剰電力を利用した電解により水から水素(グリーン水素)を生成する方法などが検討されています。また、カーボンリサイクルを行う際に、回収した二酸化炭素と水を同時に電解することで様々な炭化水素製造の原料となる合成ガス(一酸化炭素と水素からなるガス)を製造する共電解という方法も注目されています。この合成ガスを利用することで石油化学製品の原料や自動車・航空機などの燃料(合成燃料:e-fuel)などをカーボンニュートラルの条件を満たして製造できるようになります。我々の研究室では、イオン導電体を利用した高温電解の材料や技術の開発を行い、カーボンニュートラル社会の構築に貢献していきたいと考えています。

 山陰地方は風光明媚で農林・水産資源が豊かと自然環境に恵まれていますが、高齢化や人口減少に端を発する空洞化が進行しつつあります。材料エネルギー学部の一員として、上記に挙げたようなグリーンエネルギー製造技術を核とした新たな産業の振興にも繋げていけないかと考えています。

 

Fig. カーボンニュートラルを目指したカーボンリサイクルにおいて燃料電池や電解セルとしてイオン導電体を利用する概念図